台湾死刑廃止連盟2010年3月10日付プレス・リリース(日本語訳)

 
日付:  水曜日, 2010-03-10
 

台湾死刑廃止連盟が年3月10日付でプレス・リリースを発表

(日本語訳)

 

2月23日、Wu Yu-sheng台湾立法員議員は立法院で質問に立ち、「私は死刑廃止には反対しないが、現在44人いる死刑囚は死刑を執行されるべきだ」と述べた。3月8日には、Huang Shi-ming次期検察総長が立法院で、「自分も死刑撤廃には賛成だが、死刑執行を先延ばしすることは法律の土台をゆるがすことだ」として、そのような事態を避けるために、死刑囚は刑の確定後、速やかに死刑を執行されるべきだと発言した。

今朝(3月10日)、警政司(警察庁)長官のWang Cho-ChiunはWu議員の質問に答えて、確定した死刑判決は執行されるべきだと述べた。

台湾死刑廃止連盟は、死刑廃止への支持が増えていることを評価する一方で、44人の死刑確定者への死刑執行を求める意見が相次いでいることを懸念する。

1、法務大臣の権利とは何か?
刑事訴訟法461条には、死刑は「法務執行部門の最高責任者」、つまり法務部長の承認なしには執行されないと定められている。死刑対象事案に関する書類は法務部長に提出されなければならず、法務部長は個々の対象事案を見直して、必要なら再審や特別抗告を決定したり、検察官事務所に対象事案の再検討を命じたりする権利を有している。こうした法務部長の権限は、法の適正かつ公正な手続きを保証する法務部長の法的役割の一部である。このように刑事訴訟法によれば、法務部長は明らかに死刑執行命令書に押印するだけの存在ではなく、はるかに重要な役割を負っている。法務部長の役割とは、死刑事案において細心の注意が払われるよう保証することである。

刑事訴訟法のいかなる条文にも、法務部長は定められた期間内に死刑執行命令書に署名しなければならないとは定められていない。それどころか、法は意図的にこの件を法務部長の裁量に委ねている。(反対に、死刑執行官と刑務当局には執行を延期する権限はなく、法務部長の執行命令書を受け取ってから3日以内に死刑を執行しなければならない)

実際、法務部長は一定期間内に執行命令書に署名する義務を負わないだけでなく、法務部長が執行命令書への署名を断ったとしても、その判断について説明や釈明をする必要もなければ、法的審査を受ける必要もない。この事実は、死刑事案に関して法務部長が司法手続きを監督すべき権限の範囲を示しており、民主主義的なチェック・アンド・バランスの原則に沿ったものである。

2、台湾政府の司法手続きと人権基準の遵守に関する見直し
台湾政府は過去3代の法務部長(王清峰、Mao Shin-lon、Chen Ding-nan)に渡って、段階的に死刑廃止に向かう政策をとってきた。法務部長がいかなる死刑執行命令書にも署名しないという決定は、台湾の刑事手続きと人権基準の遵守に関して見直すという政府の決定を反映している。

昨年末、国連の市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)と、経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)を履行する法律が、台湾で発効した。自由権規約第6条は生命権を保護しており、死刑は「最も重大な犯罪」にのみ科すことができると定めている。また、死刑を言い渡された者は恩赦や減刑を受ける権利を有していること、妊娠中の女性や18歳未満の人には死刑を科してはならないことも定められている。台湾は、自由権規約と社会権規約を履行する法律の第8条が定めているように、自由権規約のこれらの条文が定めている基準を満たすために、2年以内に多くの見直しを行わなければならない。

3、国連のモラトリアム決議
2007年と2008年、国連総会は世界の死刑執行のモラトリアム(一時停止)を求める62/149号決議と63/168号決議を採択した。これは世界の死刑廃止に向けたきわめて重要な一歩だ。人権団体や国連、ヨーロッパ連盟(EU)はなぜ、死刑廃止の実現に向けて、このように積極的に働いているのか? 今日、死刑を存置している国々の大多数は、死刑を廃止するより存置する方が簡単だし便利だという理由で、そうしているのだ。これらの国々はいまだに死刑廃止と真剣に向き合っておらず、国民的議論も行っていない。その結果、一般市民は死刑に関する知識や情報を欠いており、たとえば死刑の代替刑といった、より成熟した具体的な政策は、まったく実現されていない。

台湾はすでに正しい道を歩んでいる。台湾は、国連のモラトリアム決議を利用して、死刑をめぐる諸問題を深く検討し、討議するための時間と場所を準備すべきである。

4、諸外国の経験
日本では1989年11月~1993年3月の3年4ヶ月間、二人の法務大臣が死刑に反対したため、死刑の執行が停止された。また、2005年10月~2006年9月には、敬虔な仏教徒の法務大臣が死刑執行命令書に署名しなかった。

一方、韓国政府は1998年から死刑反対の方針を表明し、死刑執行を命じない人物を法務大臣に任命してきた。それ以来、韓国は死刑を執行していない。だが、どの法務大臣も「法を破った」として告発されてはいない。

5、第4回死刑廃止世界会議
今年の2月24日~26日、スイスのジュネーブで、第4回死刑廃止世界会議が開催された。今回の会議では、国連の死刑に対する立場はより明確であった。開会式が国連のヨーロッパ本部で開かれただけでなく、「超法規的殺害、即決・恣意的処刑に関する国連特別報告者」のフィリップ・アルストンや、「拷問に関する国連特別報告者」のマンフレッド・ノワク、さらには国連による「死刑に関する5年毎の調査」のコーディネーターであるロジャー・フッドとウィリアム・シャバスなどの国連関係者が、会議に参加して発言した。閉会式には国連人権高等弁務官のナバネセム・ピレイが出席して、米国のNGO「死刑に反対する子どもたち」の代表から、会議の宣言文を受け取った。こうして、国連は世界の死刑廃止を支持する立場を再確認した。

シャバス博士は会議で、「自分は楽観的な見方をしている」と述べた。博士は自分の研究に基づいて、世界中での死刑廃止は2015~25年には実現するだろうと述べた。だが、死刑廃止への道のりは平坦ではない。死刑廃止が「予定通り」実現するためには、中国のような国が死刑廃止への段階的なスケジュールを策定する必要がある。

台湾は国連の加盟国ではないが、人権問題に関して国際社会で孤立すべきではない。私たちは、台湾が死刑廃止への道を歩み続け、死刑執行のモラトリアムを継続し、死刑の代替案を研究し、死刑廃止に対する世論の支持を獲得するよう働きかけることを望んでいる。死刑廃止は犯罪被害者の権利を侵害することも、社会の安全を害することもない。

これが、私たちの望む進歩である。この道を進まなければ、台湾において近い将来、死刑廃止が実現されないだろうと、私たちは懸念している。

林 欣怡(LIN Hsin-yi、台湾死刑廃止連盟事務局長)