アメリカ―死刑廃止へと向かう流れ―

 コネティカット州は、4月25日、州知事が死刑廃止法案に署名し、全米で17番目の死刑廃止州となりました。米国では、この5年間で4つの州が死 刑廃止を法制化しました。そして、3の1を超える州で死刑が廃止されるに至りました。さらに昨年11月には、オレゴン州知事が死刑執行を一時的に停止し、議会に死刑を再検討するよう求めています。また、カリフォルニア州務長官は4 月下旬、2012年11月の選挙でカリフォルニア州の死刑廃止の賛否を住民投票で問う予定であると発表しました。カリフォルニア州の死刑囚は米国 全体の5分の1を占めることから、もし廃止が承認された場合、過去40年間で米国の死刑体制における最大の減少になるでしょう。そして、1997 年より10年間にわたり米国の死刑執行数の5%を占めていたノースカロライナ州では、2006年から死刑が執行されていません。

もっとも、この残酷な刑罰を廃止した世界の主流派に米国が加わる以前に、すべきことが山積みという現実もあります。今年に入ってすでに17人に死 刑が執行され、1976年からの死刑執行数の合計は、年内にはテキサス州、オクラホマ州およびバージニア州の3州だけでも700人にのぼる可能性 があるのです。さらに国家レベルでは、10年近く連邦政府による死刑は行われていないものの、米国政権は連邦裁判所における通常の国内事案の死刑 判決に加え、グアンタナモ湾(キューバ)の米海軍基地の軍法委員会における初の死刑裁判を進めようとしています。軍法委員会は公平性の国際基準を 満たさないため、このような裁判で死刑を科すのは、国際法違反となるでしょう。

その一方で、米国における死刑執行は過去10年で急減しました。これは死刑には明らかな欠陥があるという意識が世間で高まっていることによるものです。1973年以来、DNA鑑定の進歩などにより、140人の死刑囚の無実が明らかになり、刑を免除されているのです。

コネティカット州では、死刑に対して偏見的な見方が多く、死刑が恣意的に行われてきたことが調査で示されています。そのような中で、殺人被害者 179人の親族が法案を支持するという文書に署名したことも、知事の署名につながったようです。

死刑が、命を奪う取り返しのつかない刑罰であるにもかかわらず、その適用は「完全」ではあり得ません。日本でも、死刑にともなう多くの問題点を認識した上で、一日も早く国民的な議論をしていくことが求められます。

※アメリカの死刑の動きについて、最近NHKの番組がありました。ご参考まで。
「死刑制度 揺れるアメリカ」
http://www.nhk.or.jp/worldnet/archives/year/detail20120602_18.html
(アムネスティ・インターナショナル日本)